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静岡家庭裁判所沼津支部 平成元年(少)793号 決定 1989年5月23日

少年 T・K(昭45.10.5生)

主文

この事件を静岡地方検察庁沼津支部検察官に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、平成元年4月11日午前9時ころ、婦女を強姦する目的で隣家である御殿場市○○××番地の××A方玄関から同家二階六畳間に侵入し、同室において、起床直後の同家長女B(20歳)をその場に押し倒し、その上に馬乗りになって平手で顔面を5、6回殴打するなどの暴行を加え、「おとなしくしないと殺すぞ、やらせろ。」などと申し向けて脅迫し、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に抵抗されたため、その目的を遂げなかったものである。

(法令の適用)

住居侵入の点について 刑法第130条

強姦未遂の点について 同法第179条、第177条

(送致の理由)

当裁判所は、検察官から送致された記録により、一応非行事実があるとの心証を得た。しかし、少年は捜査官に対し一旦事実を認める旨の供述をしたものの、その後これを翻し、裁判官の質問に際しても端的に非行事実を否認する旨を述べ、付添人においても記録を検討のうえ、証拠の存否並びに評価に関して多くの点を疑問として指摘し、非行事実があるとすることには到底納得できないとの意見を明らかにした。また少年の両親も、少年が本件非行をしたことはないとひたすら信じている。指摘された疑問点のうちいくつかは、これを審判手続において解明しておくことが、少年に対する保護のためにも有益であると考えられた。そこで当裁判所は、少年に反論並びに反証の機会を与えるために、職権により被害者、捜査官など若干の証人を取り調べることにし、審判期日にそれらの証人を取り調べた。ところがこれにより当裁判所の心証が非行なしとする側に変動することはなかったが、少年並びに付添人が当裁判所の認定すべきところを止むを得ないものとして受け入れるにはなお遠いことが手続過程から明らかとなった。

少年は高等学校を一学年で中退し、暫く遊んで暮らす毎日を送っていたが、間もなくアルバイトでいろいろな仕事に手を染めるようになり、本件非行の当時も人材派遣会社に所属して、工員として稼働していたものであり、これまで非行により家庭裁判所に係続したことはない。また両親と同居し、その指導を受けることのできる環境にある。

以上の諸事情と本件非行の罪質とに拠れば、少年を社会性の涵養や環境調整等を主眼とする保護処分によって処遇するためにこれ以上の時日を要することとなるのは相当でなく、むしろ少年が事実を受け入れるために必要とあればなお証拠調べを重ねるなどして刑事手続による処分に付するのが相当であると考えられる。

よって、少年法第23条第1項、第20条により主文のとおり決定する。

なお、この事件の審判手続には付添人○○、同○○が立ち会った。

(裁判官 曽我大三郎)

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